この記事では、なかなか質の高い睡眠ができず、寝付けない社会人のために、一般にはあまり知られていない「睡眠の意外な科学的事実」と、それに基づく最適なアプローチを解説します。
「7〜8時間寝ているのに日中ずっと頭が重い」
「早く寝ようと布団に入っても、目が冴えてしまってなかなか寝付けない」
「お酒を飲んですぐに寝てしまう」
睡眠の改善に取り組む人の多くが、実は「睡眠に良い」と信じられている誤った常識によって、かえって睡眠の質を下げています。
睡眠は気合いやリラックス法ではなく、生体システム(自律神経・深部体温・体内時計)の厳密な法則で動いています。
「週末の寝坊」が月曜の鬱を作る
平日の睡眠不足を解消しようと、休日に2〜3時間長く寝ていませんか?
実は、起床時間を2時間以上遅らせるだけで、体内時計の位相が西へ移動し、
「毎週ハワイへ旅行して時差ボケを起こしている」のと同じ状態(社会的時差ボケ、英語でソーシャル・ジェットラグ)に陥ります(Wittmann, M., et al. 2006)。
日曜夜の不眠や月曜朝の激しい倦怠感は、平日の疲れではなく、この体内時計のズレが直接の原因なのです。
週末は起きる時間を遅くするのではなく、「昼寝」をする
休日に睡眠を補いたい場合は「起きる時間を変えず、午後に20〜30分の昼寝(パワーナップ)を取る」のが正解です。
休日にランチを食べに行く予定があり、夜には飲み会がある日などは、一度家に帰って軽く睡眠をとることが大切です。
一度やってみたらわかりますが、数十分の仮眠でもその日の体調が本当に改善されます。

コツは「寝すぎない」こと。
どうしても睡眠時間が足りないときは、「遅く起きる」のではなく、「早く寝る」ことが大切です。
「起きる時間をいかに固定するか」で、睡眠の質は大きく変わります。
「寝酒」は百害あって一利なし
「お酒を飲むとすぐ眠れる」というのは完全な錯覚です。
アルコールは脳のGABA受容体に作用して大脳新皮質の活動を鈍らせ、「気絶(意識消失)」させているにすぎません。
体内でアルコールが代謝される過程で交感神経が刺激され、心拍数が上昇してしまいます。
記憶の定着や脳の疲労回復を担う「レム睡眠」を強力に断片化・抑制するため、睡眠時間は足りていても脳は全く休まりません(Ebrahim, I. O., et al. 2013)。
寝酒は早く寝ることはできるかもしれませんが、それをするぐらいなら寝付きに時間をかけて短い睡眠でやり過ごす方がよっぽどましだと言えるでしょう。
飲酒は就寝の三時間前まで
肝臓がアルコールを分解する速度は、体重60kgの成人で1時間に純アルコール約5〜7g(ビールなら約100〜150ml程度)です。
就寝時に血中アルコール濃度が残っていると、代謝産物であるアセトアルデヒドが交感神経を刺激し、睡眠の後半で中途覚醒や頻脈を引き起こします。
24時に寝る場合、アルコールを含む飲食は20時〜21時までに完全に終えるようにしてください。

残業が長引いたときなどは、「いいお酒を一杯」など、自分ルールを作っておくとよいでしょう。
「寝付けないのにベッドにいる」のはダメ
「眠くないけれど、横になって目を閉じていれば体は休まるはず」とベッドの中で過ごすのは逆効果です。
行動医学では刺激制御療法(Stimulus Control Therapy)として知られていますが、脳は場所と状態をセットで学習します(パブロフの条件反射)。
眠れないままベッドに居続けると、脳が「ベッド=目が冴えて悩む場所」と条件づけしてしまい、慢性不眠の引き金になります(Bootzin & Perlis 2011)。
30分ほど寝付けなければ一度リビングに行く
布団に入って30分経っても眠れなければ、一度ベッドから出て暗めの部屋へ移動する必要があります。
本を読むなどして眠気が訪れるのを待ってから、再び布団に入ります。
次の日の朝が早いと焦ってしまう気持ちがあるのはわかりますが、そんなときこそ落ち着いて、
「ベッドに入ると眠るという条件付けをするために必要なプロセスなんだ」と考えてください。

医学のアメリカ最高峰賞であるラスカー賞を受賞した睡眠学者柳沢正史は、
夜になったら薄暗い部屋にするのが効果的だとおっしゃっていました。
そもそも「明るすぎる部屋」が問題なのかもしれません。
「寝具を温める」のは逆効果
寒い夜に電気毛布をつけっぱなしにしたり、靴下を履いて寝たりしていませんか?
入眠のトリガーは「深部体温(体の中心温度)の低下」です。
人間は手足の毛細血管を開いて体外へ熱を逃がすことで深部体温を下げることができます。
足を密閉して温め続けると熱放散が阻害され、深い眠り(徐波睡眠)へ移行できなくなります(Kräuch et al.1999)。
「ぽかぽかすると眠りやすい気がする」というのはよくわかりますが、それは「睡眠の質を低下させることにつながりかねない」ものです。
足元を冷やしたくないなら
お湯で使う湯たんぽや厚手の靴下ではなく、「電化製の湯たんぽ」がおすすめです。
なぜなら、「タイマー機能があり、充電式で、深部体温を下げることを妨げないつくりになっている」からです。

冷え性の方でもタイマーを使うことで、寝付きのときは温めながら、
質の高い睡眠を保つことができます。
就寝の二時間前に入浴
さきほどから「深部体温」という用語が出ていますが、就寝の約90分〜2時間前に入浴することは、睡眠科学において「深部体温の低下」を引き起こす最も強力な方法とされています。
なぜ「直前」でも「3時間前」でもなく2時間前がベストなのでしょうか。
人間の体には「深部体温(内臓や脳など体の中心部の温度)が下がるときに強い眠気を感じる」という生理的性質があり、それが2時間ほどで適切な温度に徐々に低下していくからです。
そうすることで、入眠時間が平均10分短縮し、睡眠効率が飛躍的に向上するという研究成果があります(Haghayegh, et al. 2019)。
ポイントは「熱すぎない温度」でお風呂に入ることです。
42℃以上の熱いお湯に入ると、交感神経が刺激されて、目が冴えてしまいます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
- 「週末の寝坊」が月曜の鬱を作る
- 「寝酒」は百害あって一利なし
- 「寝付けないのにベッドにいる」のはダメ
- 「寝具を温める」のは逆効果
- 就寝の二時間前に入浴
これらのうちできることから少しずつ改善していくことで、睡眠の質を上げていき、徐々に体内の生理的バランスが整い、「寝付けない」といった状態も改善していくことでしょう。
ぜひ、好きなものを一つだけでも選んで取り組んでみてください。
参考文献
Bootzin, R. R., & Perlis, M. L. (2011). Stimulus control therapy. In Cognitive behavioral treatment of insomnia (pp. 21–30). Springer.
Ebrahim, I. O., et al. (2013). Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcoholism: Clinical and Experimental Research, 37(4), 539–549.
Haghayegh, S., et al. (2019). Before-bedtime passive water heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews, 46, 124–135.
Kräuchi, K., et al. (1999). Warm feet promote the rapid onset of sleep. Nature, 401(6748), 36–37.
Wittmann, M., et al. (2006). Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiology International, 23(1-2), 497–509.

